【伝統技法(焼杉板)の実演記録】

2014年8月7日(木)、八女市高塚の中島建設作業場にて「焼杉板(やきすぎいた)」の実演が行われました。

この企画は、NPO八女町並みデザイン研究会の伝統技法の研修会として行われました。

福岡県八女福島地区(国選定 伝統的建造物群保存地区)では、多くの町家の外壁側面に「焼杉板」が使用されています。今回は、それら外壁に使う焼杉板の実演ということです。

焼杉板って何か、ご存知ですか?実際に焼いてみましょう

西日本、特に瀬戸内海沿岸で多く残っているといわれる焼杉板。伝統的な木造家屋(蔵)の外壁として張られている焦げた黒い板のことです。

その製法ですが、まず3枚の杉板(今回は3mと2mの材料での実演でした)を合わせて正三角柱になるようにします。

杉板を3枚 組み合わせる

針金・釘で3枚を固定する

 

針金をくるっと回して止めて、釘でも止める。これで板が煙突状になりました。

針金だけだと、端がきちんと燃えないとのことで、木材同士を釘でも止められています。

次に、三角柱を立てます。下部は空洞にしておくことがポイント。

 

三角柱を立てる

 

準備完了です。実際に焼いてみました。

中に火をつけるため、新聞紙を丸めて、いくつか入れます。そして、下から新聞紙に火をつけます。少しの時間、何も起こらないなぁと・・・少し見ていると・・・

上部から煙

 

・・・煙が出てきました!

ただの杉板の煙突に見えるのですが、中ではすごく上昇気流が生まれているようです。

上部から出る炎

 

もう少しすると、煙突の先から炎が上がりました!

火柱、とにかく炎が上部に出ています。この杉板の長さは3mですから、炎は1m以上は軽く超えていたと思います。

 

倒して水をかけたら完成

焦げ方がちょうどいい頃合いを見計らって(これが結構難しいみたいですね)、横に倒して、水をかけ、止めていた針金を外すと、バタン!と焦げた面がすべて上を向いて煙突がばらけます。

見事に出来上がりました。

 

倒して、
針金を外して、パタン。

 

あとは、燃えた面同士を重ねて置いておくと、次の日にはだいたい平らになるので、そのまま壁材として使えるそうです。

そんなに難しくない手順でした。

 

 

炎が上がるのは煙突効果のおかげ

でも、なぜ新聞紙だけで、ここまでの炎があがるのか。

煙突効果(えんとつこうか)のおかげだそうです。

煙突効果(英: stack effect)とは、煙突の中に外気より高温の空気があるときに、高温の空気は低温の空気より密度が低いため煙突内の空気に浮力が生じる結果、煙突下部の空気取り入れ口から外部の冷たい空気を煙突に引き入れながら暖かい空気が上昇する現象(wikipedia 参照)。

さらに、焼き杉の場合は、煙突自体の内側が3面とも燃えて板同士の熱が加わっ て一気に燃えるという仕組みなのだとか。

 

焼杉板と伝統的な建物(八女町家)

少し、NPO理事長に聞いてみました。

-「そもそも、なぜ杉板を燃やすんですか?」

「木材は、そのままだと風雨で劣化するのが早いけんね。やけん、表面を燃やして炭化して、燃えにくしたり、腐りにくくするったいね。」

-「なるほど。防火・防腐の効果があるんですね。それでは、どれくらいの期間、持つんですか?」

「いろんな条件で変わってくると思うけど、大きなことがなければ40,50年以上は持つと思うけどね。」

わずか5分くらいの作業で、何もしなければ数年で劣化してしまう杉材を、50年以上も使えるものに仕上げることができる。

-「焼き杉の起源は、何なんでしょうか?」

「うーん、正確なことはわからんねえ。瀬戸内海の方は結構やってあるみたいやけどね。木造船を丈夫にするように焦がしたのを家屋に応用したという話を聞いたことはあるけど。あとは、鯨の脂を焼いた上から塗りよったというのは聞いたことあるけどね。本当のルーツが知りたかね。」

こんな技術が忘れさられようとしています。

いまは、ガスバーナーで焼いている焼き杉が多いそうです。どっちも焦げてるから同じと思うんですが、ガスバーナーでは浅くしか焦げず、しっかりとした黒い色にはならないようです。

 

伝統的な焼杉の炭化層は厚いので長い年月にも耐えられるそうです。しかも、伝統的なものは真っ黒で風合いも出て、表面の凸凹も面白くなっています。外壁に張ってあるのを見ても、すごく面白いですね。

ただ、真っ黒すぎて、施工は大変そのものだそうで。手も口も、(もしかしたら肺までも・・・)黒くなりながらの作業は、本当に大変そうです。

施工業者に焼杉張りを頼んでも材料の指定無しの場合は、ガスバーナー焼の既製品にしてしまうことも多いそうです。(たぶん、浅いほうが炭が他の部分について汚れにくいから)

 

「昔はね、家ば建てるときは、自分で木材を仕入れて、乾かして2年くらいはかけて建ててたもんやけど、いまは3ヶ月ぐらいで建ててしまうようになっとるけんね」

プレハブ住宅や簡易的な構造による住宅建築の波に押されて、戦後〜40年前くらいから住宅に焼杉を使うことはほとんどなくなったそうですが、最近は、焼杉に注目した建築家が出てきたりして見直されてきている動きもあるようです。藤森照信さんのラムネ温泉館などです。

 

八女福島地区で、現在修理中の町家の外壁にも、焼杉板が張られています。

ぜひ、現地の八女福島にて、見学いただければと思います。