歴史的建築物の学習会(10/4)まとめ&次回へ向けて

先週、10月4日(土)に「歴史的建築物の学習会 in八女」を開催しました。

当日は、18時半からの開始で、地元住民・建築士以外に、九州北部地域から建築士・自治体職員を中心に、50名を超える方が参加されました。

今回の講師は赤松悟 氏(都市環境研究所 九州事務所長)にお願いしました。

 講師:赤松氏

 

当日は、事務局からの概要説明後に、本題に入るという流れでした。

概要説明では、歴史的建築物に関する国の動きや、歴史的建築物がどういった状況にあるかを簡単にご紹介しました。建築基準法の適用除外の運用については概要のみをご紹介したのみで、詳しい説明を省略してしまいました。次回以降に詳しくご説明できればと思います。

特に、今回の勉強会は単発企画ではなく、連続して歴史的建築物に関する制度や知識を共有していくことで、自らの地域で反映するのはもちろん、九州北部の地域間での連携を図っていくことを目指して開催することが目的としてありました。

それらの初めての企画ということで、制度や動きの大枠を知ることはもちろんですが、「建築基準法」に立ち向かう前に、その正体を知ることから始めるということでした。

 町並み保存会会長 挨拶

 

  事務局 概要説明

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赤松氏の本題は、大きく3つ

「歴史的建築物と文化財」

「建築基準法の歴史」

「歴史的建築物の緩和・適用除外に向けての課題」です。

*講師との事前の話で、「歴史的建築物」という言葉を安易に使っているけれど、どういうことに「価値」があるのか、本当に保存していかないといけないものなのかを共有したいという意図がありました。そして、それらを使っていく・守っていく上で「建築基準法」という法律を知ること、使いこなすことが大事になってきます。これらを踏まえて、実際に使っていくための課題(ハードル)はどういったものがあるのか、今回の企画を踏まえて整理しつつ、次回につなげていくという趣旨が主催側になったことを付け加えておきます。本当は、もう少し自由にお話いただきたかったのですが、次回以降も踏まえた内容で了承いただいた経緯があります。

 

 

1「歴史的建築物と文化財」

まず赤松氏から、歴史的建築物の今日的意義として、「都市や地域(歴史的市街地や町並み)」の上にあってこそ「歴史的建築物である」ことが前提となることが説明されました。(つまり単体としての歴史的建築物をどう評価できるかという視点のみでは意義は薄くなってしまうのではないか、集合体としての歴史的町並みや市街地という捉え方をするべきであるという問題提起であると受け止めました。)

それら「都市や地域(歴史的市街地や町並み)」の将来ビジョンを描くスキルの向上がなければ、適用除外や緩和という道筋ができたとしても、将来的に辻褄の合わないものになってしまいかねないという危惧があるのだと思います。

建築基準法の適用除外や緩和を行って行く際には、「地域性規範」が協議の観点であり、多方面で「将来ビジョン」を共有できるかが鍵であるということです。それは、説明の中で何度も出てくる建築基準法の「集団規定(別リンク)」という言葉に関わってきますが、市街地の建築物を規定しているのが、我が国(日本)では「集団規定」ということになるからです。

 

次に、「文化財」という言葉についても説明されました。文化財とは端的にいうと、「価値のある「特性」」であること。

「価値」にも種類があって、①「歴史的価値」≒史跡・天延記念物、②「本質的価値」≒文化的景観、③「普遍的価値」≒世界遺産 など、文化財といっても、どういう「価値」が求められているかということも大事な指標であり、仮に文化財保護法からみたときには、「歴史的建築物」にはどのような価値があるのか。都市や町並みは無くてもよいのか?(「都市や町並み」としての価値以外で単体の歴史的建築物を価値づける場合、その周囲或は他の歴史的建築物とは違う形で(つまり本質的でない形で)、活用されていくことをどう捉えていくのかということは根本から考えないといけないのではないか、という確認)ということも問われてきます。

 

建築基準法の適用除外や緩和をしていく際に、スタティック(静態保存)からダイナミック(動態保存)へという時代の流れがあるにしても、文化庁などがいうところの「活用」という言葉には、「保存」という言葉が下敷きになっていることも指摘されました。(「活用」という言葉の意図をもっと深く考えてくださいね、と言われているような気がしました。一方で、「活用」という言葉の幅や実際の用途が社会的には多方面に広がっていることも事実で、一昔前の「活用」という言葉とは違う要素を持つという側面をしっかり押さえておくことが必要であると思います)

つまり「活用するための改修」ではなくて、「地域固有の価値」を継承していくための「活用」方法を考えるということが基本になるのだと思います。「いま活用するための改修をして、結果的に建物が保存できる」という考え方ではなくて、「本質的に保存するべきところと、変えても良い所を理解した上で、現代の用途に合わせて活用していく」という概念を本当に理解しておかないと、将来どの部分(構造・意匠・材料・組み方など)が自分たちの「都市や地域(歴史的町並みや市街地)の本質的価値」かがわからなくなってしまう/失われてしまう(≒全国共通のもの)悲劇が起こりえるのではないか、そういうことが起きないようにしっかりと考えて制度や運用方法を組み立てていきたいですね、という提案とも受け止められました。(全国共通で良い部分はあると思いますが)

たとえ、重要文化財や指定文化財にはならない建物であったとしても、引き継ぐべき「価値」をどう捉えるかは非常に大事な観点であるということが指摘されたのだと思います。「地域資源の活用」や「古民家活用」などの言葉が一過性のものであってほしくない、という思いがあるのだと感じました。

 

 

2「建築基準法 最低の基準の歴史と解釈」

2つ目の題目が「建築基準法の歴史」。これらを語る上で外せないのが、大正8(1919)年に公布された「市街地建築物法(しがいちけんちくぶつほう)」(と「旧都市計画法」)であることが述べられました。この1919年が契機であるのですが、ここでは詳しく書き出すと切りがないので省略しながら記述しますが、いくつかトピック的に紹介します。

特に、「市街地建築物法」という言葉を初めて聞いた方も多いかと思うのですが、いわゆる「日本で初めての建築に関する全国的法律」のことで、現在の「建築基準法(けんちくきじゅんほう)」の前身となっている法律です。

*建築基準法の目的は、第1条に書かれていますが「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資すること」です。

話は戻って、「市街地建築物法」という法律は、「市街地(集団規定)」+「建築物(単体規定)」法であり、都市計画制限(集団規定導入)を第一の目的として必要な建築取締規制(各府縣警察命令)が追加されたものです。

全26條で構成され、第7〜10條に建築線について記述されていますが、その一部である接道に関する部分が現在の建築基準法43条に引き継がれていたり、第14條の特殊建築物については全国に適用されるなど、骨格はそのまま現在の建築基準法に引き継がれるかたちになっていることがわかります。

それは、使用されている数字にも現れていて、現在の建築基準法で用いられている高さ「31m」及び「20m」の数値は、市街地建築物法における絶対高さ制限「100尺」及び「65尺」に由来していることなどからも見てとれます。

一方で、集団規定の対象が建築物に充てられ、土地利用(都市計画)的な規定とならなかったことが、建築法制の構造上の問題の1つといえるのではないでしょうか。

 

参考:市街地建築物法の成立に関する論述

それまで各府県が独自に定めてきた長屋建築規則や建築取締規則にかえて全国一律の建築基準をつくりだした。また、この画一性の故に、新たに市街地が形成されつつある郊外部の市町村と既成市街地を区別して異なる基準を当てはめるという本来の意味でのゾーニングも採用しなかった。このように市街地実態や市街化の地方性を無視した基準の中央集権化は大きな問題を生みだした。(中略)これに対し都市計画調査会ではも道路斜線制限に関して大阪の道路が狭いなどの地方ごとの実状の差は問題にされたが、地域ごとに地方性を考慮した基準の導入というような議論は、全く出なかったし、新市街地形成に厳しい基準を適用するという考えも出てこなかった。単一の基準で多様な実態に対応するということは、結果的にどこでも無理がない最も緩い基準の採用に行きつくのである。(石田頼房「日本の都市地域政策における地方の独自性と分権」2001,総合都市研究第74号)

 

その後、昭和25(1950)年に制定された「建築基準法」は、現在まで改正が重ねられてきています。

「単体規定」についてはほぼ全面改訂されたものの、「集団規定」についてはほぼ「市街地建築物法」を引き継ぐ形となります。「新都市計画法」に「集団規定」を役割分担したかった意図があったのではないかということで、「集団規定」が3章、「単体規定」が2章にと逆転されて記述されることになっています。(その後も、大きくは集団規定については、そのまま建築基準法が担う形で現在まで至っています)

ここで、集団規定の内容に変更がなかったことを加味して「歴史的建築物」の捉え方を再考すると、構造と敷地や周囲の環境の関係に特性が見出せるかが本来の定義であるべきで、1919年以前の建築であれば「歴史的建築物」と言えるのではないだろうかという主張がありました。

その上で、1919(大正8)以前、昭和25(1950)年以前の2つの指標を判断指標とすることが保護のスキームに説得力が増すのではないか、ということでした。(講義修了後に、赤松氏に築50年以上の建築についてはどう考えるのか質問したところ、1軒1軒を具に調査して価値があるものは保護すべきだと思うが、50年以上経過しているもの全てを「歴史的建築物」と捉えるのは安易すぎるのではないか、という答えでした)

国が集約する(地方での工夫の余地が少ない)法律が、2019年には100年を迎えるにあたって、赤松氏は何かのアクションが起こるかもしれないと述べられていたのも印象的でした。

 

 

3「歴史的建築物の緩和・適用除外に向けての課題」

最後に、課題を事例等によって説明されました。

冒頭に述べられたように、その地域の特性・その町並みにしかない特性の把握をした上で、空間特性(例えば、地割・階数・屋根形式など)は修理・修景、景観特性(立面、木製建具、意匠)は修理だけを緩和すべきではないだろうかと述べられました。次世代に誤解を与えないことをすべきであるという主張です。

 

また、適用除外によって想定される以下の課題を挙げていただきました。

①歴史的でない部分・箇所の自由な建築により、交通上・安全上・防災上及び衛生上に脆弱性が生じないか

 →建築士・所有者が生じないように理解できるか?行政がきちんと拒められるか?都市のポテンシャルを損なわないか?

②修理等すべき歴史的な箇所や部位よりも、その他の部分・箇所の占める割合が多くなる逆転減少が生じないか

 →本当に守るべき部位まで変更されたりしないか?変更できるからといって、大幅に変えてしまわないか?

③建築後、歴史的建築物として従前よりもオーセンティシティが減少するのではないか

 →どの部分を活用するのか、しっかりとした評価軸が必要ということか?

④「保存活用計画(同意基準/建築審査会)等を定める」ことになるが、同意を得ることが目的になり、建築物の歴史的特性の理解や探求がなおざりになる=脳死

 →所有者にとっても建物のことを理解出来る良い機会であると思われる。しかし、時間・費用負担などの問題も出てくることが想定される

 

次に、緩和条例の事例として、佐賀県鹿島市伝統的建造物群保存地区の取組が紹介されました。

ここでは、

法22条(防災上の措置:天井をつくり室と反対側を不燃材料で被覆 該当物件を対象とした散水設備等を設置)

法44条(防災上の措置:<建築>現状の位置を道路の側に超えない <地区>避難路の共有、道路占有物移設等)

法62〜64条(準防火地域の指定解除、法40条条例)の緩和を行った経緯が説明されました。

 

講義資料では、わかりやすく表で説明いただき、その手続き等の経緯についてもご紹介いただきました。
 

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以上のような、詳しい説明をいただきました。

歴史的町並み、歴史的建築物にとって、「建築基準法」というものを相手にしていく上で、その枠の中で解決出来ることと出来ないもの、適用除外すること緩和することで何を実現したいのか、そして私たちが後世に引き継ぎたいもの・ことは何なのか、改めて見直す機会となったのではないでしょうか。

 

結果的に、2時間ではほとんど時間が足りずに、本題のみで消化不良に終わったのではないかという事務局側の反省も込めて、次回学習会(10月13日(祝)予定/台風の影響により中止の可能性あり)と合わせた「自主的な反省会と意見交換の場」を設定することにしました。

ぜひ、当日ご参加いただいてもう少し考えたい方、興味はあったけれど参加出来なかった方、少しだけでも知りたいと思われている方、お気軽にお越し下さい。

 

【申込不要】 11月5日(水)19時〜21時 場所:おりなす八女 研修棟第4研修室

 

今後とも、よろしくお願い致します。

(文責・事務局 中島)

八女福島の町並みが国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けて、今年で10周年。

1993年に町並み保存活動が始まり、2002年5月に国の選定を受けて今年で10周年を迎え、西日本新聞の筑後版に連載記事が掲載されましたので、お知らせします。

第34回 全国伝統的建造物群保存地区協議会総会研修会

2012年5月に全国伝統的建造物群保存地区協議会総会研修会が八女市で開催されました。

地区の長い歴史や生活文化を凝縮して残っている集落や町並みを、後世に伝え残していくためにの国の制度が、伝統的建造物群保存地区制度です。この制度を導入している全国の市町村の首長・職員や住民が集まり、町並保存継承を推進する中で、直面している課題等について、熱い議論を行いました。

1. 事例発表会

2. パネルディスカッション

3. 住民第1分科会

4. 住民第2分科会

5. 住民第3分科会